反逆のカリスマ in ガススタ

4月 25th, 2005 @ 梶原 信次

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その日は全てがおかしかった。

全ては、反逆のカリスマ、彼の登場シーンのための

長いフリやったんちゃうやろか。。



彼の登場のためなら、

所詮オレらは人生ゲームで言うと銀行役にしか過ぎない存在だ。





オレはボクシング練習生。

近所の連れと通っている。



もちろん、目的は「自分自身との闘い。限界への挑戦。」と

必ず言っているが、

ほんまはダイエットである。



ダイエット8割である。





うちの会社の唯一の福利厚生で

「ボクシング、キック、ムエタイのジム費用は全額会社負担。」

というのがある。



「本当ですか?なんで?」と聞かれるが



「目標達成のためのストイックさを身に付けるため。」と答えている。



が、それが残りの2割の理由だ。







ウチのジムの会長(35歳くらい)は教えない。

人にボクシングを教えない。



でも、安心して欲しい。



女性の場合は、手取り足取り教えてくれる。必要以上に。



これで安心できただろうか。





その日は、ビルの1階に差し掛かったところで



「はい、はい、はいはいはい」みたいな声が

聞こえてきていた。

会長の声だ。しかもいつもより、1オクターブは高い声。



「めっちゃ珍しいやんけ。今日は女が5人くらいグループで入会したんちゃうか?」

と話しながら、オレらは階段を上った。







ジムがある3階に到着すると、

女どころか

大巨人が4人、プロ(ボクサー)っぽい輩が3,4人、その他3名ほど

がおり、満員御礼状態だった。



オレの連れは、突然テンションが上がっていた。



「カジくん、あれ小川じゃんっ。」



そう、あのハッスルハッスルの小川直也と、その仲間の巨人たちが

今日はジムに来ていたのだ。

これが、会長の声が2オクターブ上がっていた理由だった。



オレは逆にテンションが下がった。



あんな大男がいっぱいいれば、

オレたち「ちびっこ なんちゃってボクサー」たちは、

練習する場所がないのだ。



何か腹が立った。



オレは、思いっきりメンチを切り(関西弁でにらむ、の意)ながら、

準備をした。



多分、そのジムにいる誰もが、ほんまに誰でもが、

オレを30秒以内であの世行きにできる猛者であろう。



オレが小川直也だったら多分、朝飯前どころか、

一昨日のふりかけご飯中に、豆腐の角で

そのちびっこ練習生を、一(いち)生ゴミへと帰させただろう。







でも、その猛者たちが沢山いる状況が、功を奏した。



小川さんたちご一行が帰った直後、猛者の中の1人が

オレたちに声をかけ、リングの上に上がるように言ってきたのである。



「お、いきなりスパーかよ!まじ?」

と心が躍った。



まぁ結果的にはマスボクシングだったが、

実はオレらにとっては

初めての「対人間」のボクシングだった。



オレには、元ヤンキー丸出しの兄やんが。



オレの連れには、妙に愛想のいいオヤジ(35歳くらい?)が相手についた。

その妙に愛想のいいオヤジは、誰彼となくよく話しかける。



みんなに話かけるもんだから、皆と仲がよいのかというと、

そうでもない。



でもボクシングはかなりのベテランだから、相当上手いのかというと、

そうでもない。



多少、禿げているくらいである。



さっき、オレの相手の元ヤンとスパーをして、

思いっきりボコられていたのを、オレたちは確かに目撃している。



しかもその愛想オヤジは、

誰が見ても一目瞭然で説明なんて全く不要なのに、スパーの直後

「やっぱり、強いよなぁ●●さんは!」

と大声でオレらに説明をしてくれた。



「君のおかげで、さっきから知っていたよ。そのコトは。」



と言いたくなったのは、オレだけではないだろう。



ギョロっと大きい目がかわいい、愛想のよいオヤジである。







オレらのマスボクシングについては、はしょっておく。







さぁ、そろそろ本題に入ろうと思う。

反逆のカリスマの登場について語ろうと思う。





オレらはいつも練習後には、最寄のデニーズへ行き、

互いの武勇伝について、大声で語る。

誰も相手の話は聞いていない。





そのデニーズへ向かう途中に、

ガソリンスタンドがある。



そのガソリンスタンドを通りがかった時だった。



「てめぇ、いい加減にしろよ!コラぁぁぁ」



物騒な声が響いている。



「誰だよ?輩なやつだなぁ」と思って

その声の方を見るとなんと、、、

反逆のカリスマだった。



サングラスで目を隠しているが、



年齢のわりには若い格好をしているが、



紛れもなく、

さっきの「愛想オヤジ」以外の何者でもなかった。



「愛想オヤジ」⇒「反逆のカリスマ」への変身の瞬間だった。





「はぁああ?あぁぁん?何とか言えよ」



とわめき散らす「反逆のカリスマ」にオレらは近寄った。



オレら

「どないしたんですか?」



反逆のカリスマ

「おぉ、、こいつさ、空気入れとけって言ったのに、

入れてやがらねぇんだよ。」



胸ぐらを掴まれている店員

「すみません、私1人だったもんで。。」







店内を見渡すと、ベンツやハイラックスなど大きな車が

沢山、給油待ちをしている。



あの「反逆のカリスマ」の車も、この中のどれか

なのだろう。



さっきから胸ぐらを掴まれている店員を見ると、

かなりのおじいちゃんである。



そのおじいちゃんに対して、

反逆のカリスマは、容赦しない。







さすがにこれは可哀想だと思い、オレらは仲裁した。



「まぁ、ちゃんと謝らせて、空気を入れてもらいましょうよ。」

と。



反逆のカリスマは、やっとその興奮がおさまってきた。

ほんま、ジムの中とは大違いの「大きな態度」である。







「ここまで怒るなんて、よっぽどの車好きなんやなぁ。」



「あのベンツか?ハイラックスか?」

と思った。





カリスマは、自分の愛車の方へ向かって歩き出した。





ん?ん?





一台だけ、半ヘルがかかっている、



ちょっと古臭い、



JOGが置いてある方へ向かっている。



便利なカゴ付きだ。







まさか?



まさか?







かちゃ、キュイーン。

エンジンがかかった。







オレとオレの連れは、心の底から溢れ出す笑いを、

もう少しで漏らしてしまうところだった。







サングラス姿であんなに切れていた「反逆のカリスマ」。



おじいちゃんの胸ぐらをあんなに締め上げていた「反逆のカリスマ」。



愛車の空気入れを怠ったことを、絶対許さない「反逆のカリスマ」。







彼の愛車は、、便利な街の人気者=お買い物に最適「旧JOG」だったのだ。



おじいちゃんに、空気を入れ忘れられたのも、その旧JOGだった。







反逆のカリスマは、

ジム内のスパー第1ラウンドは、KO寸前の完敗だったが、

ガソリンスタンドでの第2ラウンドは、

文句なしのKO勝ちだった。





オレたちは、反逆のカリスマと旧JOGだけをガススタに残して、

夕日を背にデニーズへ向かった。



反逆のカリスマの登場によって、

デニーズの中では、とてもよく腹筋が鍛えられた日だった。